離婚コラム
親権・監護権
親権はどのように決まる?父親が親権をとれる?親権者の変更は可能?
公開日:2019.02.08 最終更新日:2022.05.17
離婚をする際には、親権者を夫婦の一方に決めなければなりません(親権者の指定)。この記事では、親権者はどのように決まるのか、親権者の変更は認められるのかなどについて、弁護士が解説いたします。
親権者を決める手続き:協議、調停、裁判
親権者を父母のどちらにするかは、協議、調停、裁判の手続きにより決まります。
親権者をどちらにするか、話し合いで決められればいいのですが、大切な我が子であるのは夫婦いずれにとっても同じなので、場合によっては鋭く対立することがあります。
夫婦の協議により合意できれば、それにもとづき親権者が決まります。
夫婦間の協議で決めることができない場合には、子の福祉にかなうのはどちらかという観点から、裁判所が父母のいずれが親権者にふさわしいかを審理・判断します。
最終的には審判や訴訟により定まりますが、その際に考慮される事情としては次のようなものがあります。
親権はどのようにして決まる?
親権者を決める際は、どちらを親権者とすることが子の福祉に資するか、という観点から判断されます。
具体的には、以下のような事情が総合的に考慮されます。
- 親の性質(年齢、性別、収入、性格、生活状況など)
- これまでの監護状況
- 監護への意欲
- 子の状況(年齢、性別、性格など)
- 生活環境への影響
考慮要素の中でも、例えば子が中学生くらいと大きく、自分の意見を言えるような場合には、子の意見が尊重される傾向があります。
親権者を決める際の考慮要素
1. 監護の継続性
現状として子を継続して監護していることは、重要な考慮要素となります。子の現状の生活環境を維持できる側に親権者を指定する考え方です。
子の監護を継続している場合、育児放棄していたり、虐待を加えたりといった事情がない限りは、その現状を維持することが子の福祉のためにかなうと考えられ、親権者を決める際にも大きな影響を与えます。
たとえば、夫が家を出て遠方に別居し、妻と子がもとの家に残されたといった場合、子にとっては別居前からの家に住み続けて生活する方が生活環境に変動がなく、子の福祉にかなうものと考えられることから、妻側を親権者とすべきという方向に考慮されます。
2. 子の監護状況
実際に子を育てていた側に親権者を指定する考え方です。
具体的な監護の内容や期間(監護実績)、監護に必要な収入の有無、監護をサポートしてくれる人の存在(監護能力)、監護したい理由や動機(監護意欲)などが考慮されます。
3. 母性優先
母親の役割を果たしている側に親権者を指定する考え方です。
特に子が幼い場合、母親による監護と愛情が重要であるとされ、母親を親権者に指定する傾向が強くなります。
ここに言う「母性」とは母親を意味するものではなく、あくまで母親の役割を果たしていることを意味します。あくまで「母性」優先であり「母親」優先ではないのですが、多くの場合は同義に扱われます。
絶対的な基準というものではなく、場合によっては幼児の親権者に父親が指定されるという場合もあります。
4. 子の意思の尊重
子どもの意思に基づき親権者を指定する考え方です。
15歳以上の子の親権者を決める審判では、子の意見を聞かなければならず、15歳に満たない場合でもある程度の年齢に達した子の意向は尊重される傾向にあります。
つまり、子が満15歳以上であれば、子の意思の確認(子の陳述)は行われますし、満15歳未満でも意思確認がなされることがあります。
もっとも、子の意向は幼さゆえに変わりやすく、監護親の影響を受けやすいこともあり、子の意向が絶対視されるわけではありません。
子の年齢が上がるにしたがって、子の意思を尊重する傾向があります。
5. 兄弟姉妹不分離
兄弟姉妹がいる場合には、子は引き離さないように親権者を指定すべきである(むやみに分離して親権者を決めるべきではない)とする考え方です。
6. 監護開始の際の態様(奪取の違法性)
監護を開始する際に、子を不法に連れ去った等の事情が考慮される場合があります。
別居の際に子の連れ去り等があり、その違法性が強いことを、連れ去った側の親にマイナスに評価する考え方です。
7. 離婚の際の有責性
不貞など離婚についての原因を作り出したことが、子の親権者としても適格がない事情として考慮される余地はありますが、あくまで子の福祉の観点からの適性に欠くかという観点からの考慮事情となります。
8. 面会への協力
子と別居している側の親との面会について協力的な方に親権者を指定する考え方です。
例えば、「父側は親権者となった場合、母との面会を年100回認める」「母側は親権者となった場合、父との面会を月1回認める」と主張した事案において、父側の面会への協力を考慮して親権者を父に指定した事案があります(千葉家裁松戸支部判平成28年3月29日。なお、控訴上告審では、継続性の原則を重視して母側に親権者が指定されています)。
これらの事情はあくまで考慮要素であり、その軽重はあるものの絶対的な要素ではありません。
親権は離婚の際には鋭く対立する部分でもありますので、ご自身が親権者になり得るのかは慎重な検討が必要でしょう。
父親が親権者になることはできる?
個別事情によっては父親でも親権者となることができますが、それなりに高いハードルがあります。
基本的には上記の考慮要素から、父親側が親権者にふさわしいと判断されれば親権者に指定されます。
しかし現実には、考慮要素のうち「子の監護状況」や「母性優先」などがネックとなり、父親が有利になることは少なく、親権者に指定されるケースも少ないようです。
親権に争いがある中、父親が親権者となるためには、それなりに高いハードルを越えなければならない可能性があることは認識しておく必要があるでしょう。
親権者を変更することはできる?
「離婚の際にいったん親権者を妻と定めたが、その後、親権者を妻から夫に変更する」といったことはできるのでしょうか。
結論として、親権者を変更することはできますが、変更が認められるためには親権者変更の調停・審判の申立てをし、親権者変更が子の利益になると認められる必要があります。
よほどの事情がなければ変更は認められないので、「後で変更してもらえばいいや」という安易な考えは禁物です。
親権者変更は合意ではできない:調停・審判が必要
親権者を変更するためには、父母の合意だけでは変更することはできず、必ず家庭裁判所の調停・審判の手続が必要です。
具体的には、家庭裁判所に親権者変更の調停の申し立てをし、調停の中で親権者を変更すべきか話し合いをします。
話し合いの中で、親権者変更が妥当であるとまとまれば、親権者変更を行うことができます。
話し合いがまとまらなければ、調停は不成立として終了し、裁判官が一切の事情を考慮して審判をし、親権者変更をすべきか結論を出すことになります。
育児放棄や子の意向によっては変更が認められる可能性も
一度決められた親権の変更はなかなか認められにくいのが現状です。
もっとも親権は、子どもの健全な成長を助けるようなものである必要があります。そのため調停の中で、相手方が子どもにDVを加えているなど、子どもの育児を放棄しているといった事情が認められれば、親権者の変更は認められる可能性が高いといえます。
また、子どもが中学・高校生のように、ある程度自己の意思を明確に表示できる年齢であり、その子どもが親権者の変更の意向を示している場合には、子の意向が反映される可能性が高いといえます。
とはいえ、親権者変更の申立ては認められにくいので、離婚の際にしっかりと親権者について協議し決めておくことが大事です。
※本記事は、公開日時点の法律や情報をもとに執筆しております。
【本記事の監修】
弁護士法人桑原法律事務所 弁護士 桑原貴洋(代表/福岡オフィス所長)
- 保有資格: 弁護士・MBA(経営学修士)・税理士・家族信託専門士
- 略歴: 1998年弁護士登録。福岡県弁護士会所属。
日本弁護士連合会 理事、九州弁護士会連合会 理事、佐賀県弁護士会 会長などを歴任。