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卒婚とは | 離婚との違い | 準備を徹底解説

公開日:2020.05.25  最終更新日:2022.01.19

この記事の目次

「卒婚(そつこん)」をご存知でしょうか。俳優の加山雄三さんなど芸能人の選択として話題になり、新しい夫婦のかたちとして広がりつつあります。

この記事では司法の視座から「卒婚」を研究する数少ない法律事務所であり、累計1300件以上の離婚相談を手がけてきた福岡・佐賀の桑原法律事務所の弁護士が解説します。

 

卒婚とは:離婚を避ける「前向きな第3の道」

卒婚(そつこん)とは、夫婦が婚姻関係を続けながら、最低限のパートナーシップ上のルールを守った上で、適度な距離を保ちつつ、お互いに独立・自立した人間として、夫婦として生きていくことを意味します。

評論家の杉山由美子さんが2004年、著書「卒婚のススメ」で提唱した新しい概念で、夫婦の事実上の状態を表します。

婚姻関係は続きますので離婚ではなく、法律用語ではありません。

いままでは夫婦関係が難しくなったら、離婚か我慢かの二択でした。「卒婚」という第3の道では離婚を避け、家庭内別居や別居といった、あいまいな状態からも解放されるのです。

小学館のWebメディア「kurura(クフラ)」や婚活プラットフォーム「e-venz(イベンツ)」によるアンケートでは、30〜60代の幅広い世代で卒婚希望者がみられます。

アンケート調査結果から、一部を引用すると…。

女性の声

・「子育てが終わりに近くなると、夫といつも一緒に行動する必要性がわからなくなる時がある。趣味や友人のいない夫といてもつまらないと感じることがある」(47歳・技術職)

・「子ども中心の世界から解放されたらお互い干渉しない生活をするのもよい方法だと思っている。違う土地に住みたまに会うのも互いに新鮮で関係も良くなるのではないか」(65歳・技術職)

男性の声

・「価値観が違うので一緒に居られないが、戸籍上の法的なメリットを解除してまで離婚する必要まではない。親族や親などの立場を考えてしまう」(57歳・総務・人事・事務)

・「婚姻関係を終わらせるのは相続その他でいろいろ問題があって難しいと思うが、お互いに勝手気ままに暮らしていくのも悪くないような気がするから」(61歳・総務・人事・事務)

離婚にためらいがある一方、夫婦を前提とした不自由さ、価値観の違いによる負担からは少しでも解放されたいという回答者の思いが伝わってきます。

 

では、どのタイミングが「卒婚」に向くのでしょうか。詳しく説明します。

 

卒婚とは:「最低限の夫婦」としての自立的な関係

まずは夫婦の状態をステージごとにみていきましょう。

ずっと円満な夫婦

※クリックで拡大します卒婚(図解)-1

けんか、仲直りというステージをへて、最終的に死別を迎えます。

離婚する夫婦

離婚する夫婦は、けんか以降の流れが変わります。

※クリックで拡大します。卒婚(図解)-2

険悪になったり、一時的に別居したりしたとしても、何とか仲直りする夫婦もいるでしょう。しかし根本的な課題が解決されない限り、元の円満な関係に戻れるケースは少ないのではないでしょうか。

卒婚の場合

険悪となり「家庭内別居」となっても、「卒婚」により円満な同居に戻る見込みが広がります。すでに別居した夫婦でも、話し合って「卒婚」を選び、最低限の夫婦としての自立的な関係を保ち続ける可能性が出てきます。

※クリックで拡大します。卒婚(図解)-3

卒婚は①円満な夫婦、②険悪な夫婦、③(家庭内)別居状態の夫婦、④離婚を争っている夫婦という夫婦の各ステージのうち、円満な夫婦以外(②~④)の2人に検討していただきたいオプションです。

ではどうしたら「卒婚」できるのでしょうか。

 

卒婚とは:同居でも別居でもOK

卒婚とは別居が前提でしょうか?同居のまま、または同居に戻ってもいいのでしょうか。答えは「卒婚の取り決めを夫婦間ですれば、どちらでもOK」です。

同居卒婚のパターン

卒婚後に同居生活をする場合を「同居卒婚」といいます。

「同居→<卒婚>→同居継続」のケースでは、同居中に「卒婚」について話し合い、取り決め(口約束、または書面化)をするパターンが多いでしょう。

「別居→<卒婚>→同居」は別居後に卒婚の取り決めをし、再び「同居卒婚」として住まいをともにするケースです。

別居卒婚のパターン

また「同居→<卒婚>→別居」や「別居→<卒婚>→別居継続」といった、卒婚後に別居生活をするパターン(別居卒婚)もあります。

卒婚のルールを取り決めることがカギ

いずれにしても「取り決め」が卒婚のカギを握ります。

「話し合いなんてできない」「卒婚に取り合ってくれない」といった場合、「取り決め」はどうやってしたらよいのでしょうか。

 

「卒婚契約書」作成のススメ

夫婦間で取り決めた事項について、当事務所では「卒婚契約書」といった書面化をお勧めしています。

「卒婚」は法律上の制度ではありません。具体的なルールを定めないと、双方の認識の差によって関係がますます悪化しかねません。

卒婚を夫婦で話し合い、書面化すれば通常、「卒婚契約」と評価できるでしょう。

 

口約束ではどうでしょうか。

そもそも契約とは「一定の法的効果を発生させるため、複数の当事者の合意によって成立する法律行為」です。

口頭だけでも「コンビニで商品を買う」といった「無言の態度」でも、契約が成立しうるのです。

ポイントは書類の有無ではなく、合意があるか(両当事者の間で、何らかの法的拘束力が生じているか)どうかです。

口頭でも卒婚後の生活について取り決めれば、約束自体は「卒婚契約」とされるでしょう。

ただし、口約束だけですと次のようなリスクが考えられます。

  • 同居卒婚と家庭内別居との区別がつかない。
  • 別居卒婚と別居との区別もあいまいになってしまい、卒婚のメリットを最大限発揮できない。
  • 細かなニュアンスの違いで、新たなトラブルが起こる。
  • 口約束した内容を忘れたり、誤解したりして、新たなトラブルが起こる。

口頭での取り決めがなく、たまたま夫婦の生活実態が「卒婚契約」している夫婦と同じケースはどうでしょうか。

いわば事実上の「卒婚」状態ではありますが互いを法的に拘束し合っておらず、「卒婚契約」をしているわけではありません。

 

「卒婚契約書」書面化しても壁あり

とはいえ書類の卒婚契約にも弱点があります。

民法上「夫婦間の契約はいつでも取り消すことができる」とされています(民法754条)。

せっかく「卒婚契約書」を作っても、いつでも取り消せるのであれば問題です。

また「夫婦の財産関係は、婚姻後にはルール化することが認められない」とされています(民法755、758条等)。

「卒婚契約書」で財産関係についてルールを決めても、民法の条文に反して有効と認められるのか、も問題となります。

夫婦が真剣に話し合って取り決めをした「卒婚契約書」には、上記のような民法の規定は適用されないと解釈できれば法的に有効な契約書となりますが、先例がなく安心できないのも事実です。

「卒婚」に関する判例も今のところ見かけません。「卒婚」という事実状態が法律的にどう解釈されるか、これからの社会的な認知度や判例が待たれます。

 

「内縁」の解釈、卒婚にも広がる余地

結婚は法律では「婚姻」という戸籍上の制度です。なかには姓が変わる抵抗感や公的手続きの負担感などにより、婚姻届を出さず「内縁」関係を選ぶ人もいます。

つまり法律は「婚姻」を求めていますが、夫婦は事実婚である「内縁」を選ぶ場合です。

円満な夫婦としての実態が失われた場合、法律では「離婚」という戸籍上の制度が設けられています。ただし「離婚」には財産面、子どもとの関係など心身ともに負担を伴うのも事実です。

離婚によるデメリットを避けるため、単なる別居などとも異なるオプションとして「卒婚」を選択する夫婦が現れ始めました。つまり法律は「離婚」を求めていますが、夫婦は事実上の「卒婚」を選ぶわけです。

こうして考えますと「内縁」と「卒婚」は、法律に定めのない事実上の関係という共通点がありますね。

法律に定めのない「内縁」に関する過去の裁判例の集積は、同じく法律に定めのない事実状態である「卒婚」に関する法律的な解釈に、援用する余地があります。

では「内縁」の解釈をみてみましょう。

「内縁」関係にある夫婦間には、法律上の「婚姻」に近い事実状態という点を重視して、夫婦間の法律的ルールが適用されると解釈されています。

夫婦間の同居義務・協力義務・扶助義務(民法752条)があるのはもちろんのこと、守操義務(貞操義務=不倫をしない義務)もあると解釈されています。

内縁関係にある配偶者が第三者と不倫行為を行った場合は、慰謝料請求をすることができます。

相続関係や税務上の配偶者としてのメリットは、「内縁」に関する契約書や相続に関する遺言書がなければ、内縁の配偶者には適用されないと解釈されています。

契約や遺言書があればその内容が適用されます。

 

卒婚:同居や扶養義務は免除の可能性

「卒婚」は法律上の「離婚」に近い事実状態という点を重視しますと、互いが別居をしてこれを受け入れている場合、同居義務については互いに免除していると考えられます。

扶養義務についても、双方に収入があり家計上自立している場合、免除し合っていると考える余地が出てきます。

協力義務と守操義務についてはやや判断が難しくなりますが、別居している場合には、相互にこれらを免除していると解釈できる可能性も高まるでしょう。

とはいえ、「卒婚」自体は受け入れたが、他の異性と交際をすることを許した覚えはない、ましてや妊娠させてしまうなんて、といったトラブルも起こりえます。

やはり「卒婚」を選択する場合には、契約書を取り交わしてルール作りをしておくことが大切です。

 

卒婚に関する弁護士業界の課題

当事務所は1998年、佐賀・武雄に開業して以来、多くの離婚案件にかかわってまいりました。

相談・依頼される方の多くは夫婦関係が修復不能になり、離婚しか選択肢がなくなってから来られます。「あと半年、1年前に相談してくれたら…」と思うこともしばしばです。

この点は、私たち弁護士の側にも課題があったと感じています。

まずは業界の問題です。離婚問題に積極的に取り組む事務所は、歴史的には多くありませんでした。

次に弁護士の意識です。「弁護士の仕事とは、離婚を決めた方のために、条件などの取り決めをサポートすること」と考えてきました。

もちろん弁護士の多くは、しっかりとサービスを提供したと思います。ただし「離婚以外のオプションを当事者と一緒に考える」という視点は少なかったように思います。

「離婚を決めてからでないと弁護士に相談する意味がない」。

これが夫婦関係に悩む方々の認識でした。

開かれた司法の観点からも、当事務所では「卒婚」サポートに踏み切りました。

 

卒婚サポートをスタート

当事務所では離婚問題を重点的な注力分野と定め、プロフェッショナルかつ親身なサービスの提供に努めてまいりました。

しかし世の中には離婚を決めた方より、離婚するかどうかで悩む方が圧倒的に多いものです。

当事務所の卒婚サポートは、険悪になり始めた夫婦に向けて、妥協して「(家庭内)別居」を続けるのか、妥協せず「離婚」を選ぶかの2択ではなく、第3の道として「卒婚」という前向きな道もあると提案しています。

 

卒婚のご相談は弁護士法人桑原法律事務所へ

卒婚は、夫婦関係の課題を解決するための一つのオプションです。

離婚すべきかどうか悩まれている方、険悪な夫婦関係をどうにかしたいと考えておられる方、配偶者からの暴力・DVやモラルハラスメントに悩まれている方など、悩みを抱えておられる方は、ぜひ当事務所までご相談ください。

 

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【添付資料】
・e-venz(イベンツ)を運営するノマドマーケティング株式会社のアンケート
https://e-venz.com/column/11724/

・「kufura(クフラ)」を運営する株式会社小学館のアンケート
妻側の記事
https://kufura.jp/family/couple/193338
夫側の記事
https://kufura.jp/family/couple/193319

※本記事は、公開日時点の法律や情報をもとに執筆しております。

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