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予期せぬ妊娠のとき、あなたは…
公開日:2014.11.29
今回は、他の弁護士から紹介してもらった判例を、皆様にもご紹介しましょう。
平成21年10月15日の東京高等裁判所の判決です。
原告Xが男性、被告Yが、原告Xの子を妊娠したが、中絶せざるを得なかった、という事案のようです。
なかなか、感慨深い表現を使って違法行為を認定していますので、全文をそのまま紹介します。
「XとYが行った性行為は、生殖行為にほかならないのであって、それによって芽生えた生命を育んで新たな生命の誕生を迎えることができるのであれば慶ばしいことではあるが、そうではなく、胎児が母体外において生命を保持することができない時期に、人工的に胎児等を母体外に排出する道を選択せざるを得ない場合においては、母体は、選択決定をしなければならない事態に立ち至った時点から、直接的に身体的及び精神的苦痛にさらされるとともに、その結果から生ずる経済的負担をせざるを得ないのであるが、それらの苦痛や負担は、XとYが共同で行った性行為に由来するものであって、その行為に源を発しその結果として生ずるものであるから、XとYとが等しくそれらによる不利益を分担すべき筋合いのものである。しかして、直接的に身体的及び精神的苦痛を受け、経済的負担を負うYとしては、性行為という共同行為の結果として、母体外に排出させられる胎児の父となったXから、それらの不利益を軽減し、解消するための行為の提供を受け、あるいは、Yと等しく不利益を分担する行為の提供を受ける法的利益を有し、この利益は生殖の場において母性たるYの父性たるXに対して有する法律上保護される利益といって妨げなく、Xは母性に対して上記の行為を行う父性としての義務を負うものというべきであり、それらの不利益を軽減し、解消するための行為をせず、あるいは、Yと等しく不利益を分担することをしないという行為は、上記法律上保護される利益を違法に害するものとして、Yに対する不法行為としての評価を受けるものというべきであり、これによる損害賠償責任を免れないものと解するのが相当である(Yが、条理上の義務違反に基づく損害賠償責任というところの趣旨は上記趣旨をいうものと解される。)。
しかるに、Xは、前記認定のとおり、どうすればよいのか分からず、父性としての上記責任に思いを致すことなく、Yと具体的な話し合いをしようともせず、ただYに子を産むかそれとも中絶手術を受けるかどうかの選択をゆだねるのみであったのであり、Yとの共同による先行行為により負担した父性としての上記行為義務を履行しなかったものであって、これは、とりもなおさず、上記認定に係る法律上保護されるYの法的利益を違法に侵害したものといわざるを得ず、これによって、Yに生じた損害を賠償する義務があるというべきである(なお、その損害賠償義務の発生原因及び性質からすると、損害賠償義務の範囲は、生じた損害の2分の1とすべきである。)。」
東京高裁は、原審の結論を維持して、不法行為に基づく損害賠償責任として、金114万2302円の支払義務を明示しました。
要するに、妊娠中絶をすべきかどうか悩んでいるとき、あるいは現実に中絶手術を受けた後において、その原因を作った男性は、中絶手術をすることになった女性に対して、様々な配慮をする義務がある、ということです。
予期せぬ妊娠という事態に陥った当事者の方々からの相談は、男性側、女性側を問わず、大変多くなっています。初めての体験に、本人も両親も、どうしてよいのか分からずに、パニック状態になっていることも多いものです。
ご相談いただければ、何らかの解決策または方向性を、示せると思います。
※本記事は、公開日時点の法律や情報をもとに執筆しております。
【本記事の監修】
弁護士法人桑原法律事務所 弁護士 桑原貴洋(代表/福岡オフィス所長)
- 保有資格: 弁護士・MBA(経営学修士)・税理士・家族信託専門士
- 略歴: 1998年弁護士登録。福岡県弁護士会所属。
日本弁護士連合会 理事、九州弁護士会連合会 理事、佐賀県弁護士会 会長などを歴任。