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妻/夫からのモラハラ事例|離婚の手順|弁護士が解説
公開日:2022.08.05
モラハラ(モラル・ハラスメント)を訴える夫婦が増えています。配偶者からモラハラを受けている場合、どのように対処すればよいでしょうか。妻/夫からのモラハラの事例や、離婚までの手順について、離婚問題に精通する福岡・佐賀の弁護士法人 桑原法律事務所の弁護士が解説します。
Q.モラハラとは何ですか?
A. モラハラ(モラル・ハラスメント)とは、言葉や態度などで相手の人格を傷つけ、精神的な痛手を負わせる言動を繰り返す行為を意味します。
「モラル・ハラスメント」は、フランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌによって提唱され、家庭や職場などでのトラブル例として近年、使われるようになった言葉です。
パワハラ(パワー・ハラスメント)との違いは、主に下記が挙げられます。
- パワハラは上司や部下といった、立場上の力関係がある。モラハラは立場は関係ない
- パワハラには肉体的な暴力も含まれる。モラハラは精神的なダメージが中心
家庭内のモラハラの場合、精神的DV(ドメスティック・バイオレンス)も含まれるでしょう。
職場でのパワハラや学校でのいじめなどとは異なり、家庭内でのモラハラに関する判例・法律による定義づけはありません。
2020年に家庭裁判所に申し立てられた「婚姻関係事件」において、夫側が申し立てた15,500件のうち、申し立ての動機は多い順に下記の結果となっています。(3個までの複数回答)
- 性格が合わない:9,240件
- 精神的に虐待する:3,159件
- 異性関係:2,132件
19 婚姻関係事件数 申立ての動機別申立人別 全家庭裁判所(2020年)より
「精神的な虐待」は、モラハラ(精神的DV)に当たると考えられます。
妻/夫からのモラハラの事例とは
相手の尊厳を傷つける暴言や態度、強い束縛や支配状況を作り出している場合、モラハラにあたるといえます。妻からのモラハラの事例としては、たとえば下記のようなケースがあります。
- 「汚い」「くさい」などと繰り返し言う
- 「能無し」「無能」「馬鹿野郎」などとののしる
- 「もう帰ってくるな」と言いながら壁やドアなどをたたく
- 「子育てができない」と度を超えてなじる
- 出かけるとつきまとって監視する。異常に束縛する
- 容姿をあげつらう
- 趣味を否定する
- 学歴や会社を見下す
- 専業主婦(専業主夫)であることを見下す
- 「子どもができないのはお前のせい」などと継続的に言う
- 「こんな少ない給料で我慢してやっている」と罵倒する
- 生活費を渡さない。経済力などを利用して脅す
- 失敗を責め続ける
- 執拗に無視をする
など
Q.モラハラをする妻/夫と離婚できますか?
A. まず、夫婦双方とも離婚することに同意できている場合は、どのような理由であっても離婚することは可能です。
夫婦の一方が離婚に同意しない場合には、民法で定められた離婚原因が必要です。
民法770条に定められている離婚の原因(法定離婚事由)は、下記の5つです。
- 配偶者の不貞
- 配偶者の悪意の遺棄
- 配偶者が3年以上、生死が不明
- 配偶者が強度の精神病で回復の見込みがない
- その他婚姻を継続しがたい重大な事由
モラハラは不貞などとは異なり、行為そのものが「法律上の離婚原因」と定められているわけではありません。婚姻関係が破綻しているといえるかの判断要素にとどまります。
モラハラと呼ばれる行為の程度や期間、モラハラによる夫婦関係の状況が、「悪意の遺棄」(民法770条1項2号)や「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)と評価されれば、離婚が認められる可能性があります。
離婚の初動は、その後の協議の進め方や調停・裁判になったときの有利・不利に大きく影響します。何から始めるのが最善か、専門家である弁護士に相談されることをおすすめします。
モラハラの証拠とは
モラハラが具体的にいつ、どのようなことをされたのか、証拠の有無は重要です。
モラハラは往々にして、家庭内という外部から遮断された環境下で行われますから、モラハラがあったことを明らかにする証拠が乏しいことが多いです。
モラハラで離婚したいと思っても証明することができず、離婚が認められないケースもあります。また、離婚できたとしても、モラハラに対する慰謝料は支払われないか、支払われても低額にとどまる傾向にあります。
モラハラを原因として離婚したい場合、証拠集めが重要です。単に「モラハラがある」というだけではなく、モラハラにあたる「具体的な言動」を継続的に記録しましょう。
- 相手の言動を録音する
モラハラと感じる行為は、スマホの動画やボイスメモ機能などを使って記録しておきましょう。 - 相手の発言を日記に記しておく
被害を受けた日付を入れてメモしておきましょう。 - 警察や行政などの支援窓口(配偶者暴力相談支援センターなど)に相談した記録
相談した日時、担当者や行ったときの状況をメモしておきましょう。 - PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの診断書
度重なるモラハラにより、うつなどの症状を感じたら病院を受診しましょう。診断書なども資料の一つになりえます。
モラハラで別居する際の注意点
モラハラを解消する手段については、いったん距離を置く、第三者を交えて話をするなどが考えられます。
同居を続けることが耐えられない場合、まずは別居することを優先し、別居先の確保、引っ越しの準備等から始めます。
別居にあたっては、下記のような点について検討しておきましょう。
① 離婚交渉等に必要な情報・証拠の収集
別居した後では、モラハラを受けたことを明らかにする証拠集めが困難になる場合があります。以下のような対応をしておきましょう。
- 書かされた謝罪文など、書面があれば事前にコピーしておく
- 壊されたドアや壁などがあれば写真撮影しておく
② 別居先の確保
引っ越しには出費を要しますので、可能な限り費用を抑える方法を考えられるとよいでしょう。
③ 別居のタイミング
相手方の特徴によっては、秘密裏に別居を進めたほうがよい場合があります。いつ別居を開始するかは慎重に決めましょう。弁護士などの専門家に相談することも有効です。
④ 荷物の引き揚げ
別居後は、置いてきた荷物の引き渡しが難航する場合があります。別居にあわせて、必要な荷物は可能な限り持ち出すことをおすすめします。
⑤ 別居直後の相手方への対応方法
相手方には秘密にして、または相手方の意思に反して別居を始めた場合、相手方が激高したり、勤務先に連絡してきたり、思いがけない行動に出る恐れもあります。特に、別居直後の対応は慎重に決めておく必要があります。
弁護士への相談・依頼は、別居前がおすすめです。弁護士に交渉を依頼しておけば、相手方と直接やり取りする心理的負担を大きく軽減できるうえ、先々まで見据えたアドバイスを受けることができます。
「自分が悪い」と思いつめず相談を
モラハラを受け続けた結果、精神的に追い詰められ「怒らせた私が悪かった」などと考えてしまう傾向があります。
加害者は家庭の外では人あたりがよいケースもあり、被害者は親しい人にも理解してもらえず、一人で苦しんでいるケースも見受けられます。
加害者には自分がモラハラをしているという意識はなく、「自分こそ被害者」「あなたこそ加害者」と考えるパターンも多いものです。
モラハラを我慢していても、解決に向かうケースはあまり多くないでしょう。時間が経過すると、逆にエスカレートする可能性もあります。
相手方が自己の行為に気づき、反省し、関係の修復を求めてくる場合もあります。ただし反省しても一時的で、再び同じようなモラハラ行為を繰り返すケースも少なくありません。
いずれにしても、相手方との関係を見直す必要があるでしょう。
お一人で悩まないことも大切です。弁護士は、今後の展開を見据えた法的アドバイスやサポートが可能ですので、まずは一度、当事務所の弁護士にご相談ください。
※本記事は、公開日時点の法律や情報をもとに執筆しております。
【本記事の監修】
弁護士法人桑原法律事務所 弁護士 桑原貴洋(代表/福岡オフィス所長)
- 保有資格: 弁護士・MBA(経営学修士)・税理士・家族信託専門士
- 略歴: 1998年弁護士登録。福岡県弁護士会所属。
日本弁護士連合会 理事、九州弁護士会連合会 理事、佐賀県弁護士会 会長などを歴任。