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財産分与とは?分与割合や対象財産、分与方法について解説
公開日:2019.01.10 最終更新日:2022.05.17
財産分与とは、離婚した夫婦の一方が他方に対して財産を分与することをいいます。離婚をする際に夫婦共有財産を清算し、持っている資産の少ない方が、多い方から一定の財産を受け取ることができる手続きです。
この記事では、財産分与の性質や対象となる財産、割合の決め方について弁護士が解説いたします。
財産分与を請求できるのは離婚後2年以内
定義上も明らかなとおり、離婚せずに財産分与を求めることはできません。
必ずしも離婚と同時に財産分与を行わなければならないわけではなく、離婚後に財産分与を請求することもできます。
ただし、財産分与請求は離婚後2年以内にしなければならないと定められています。
この2年という期間は、法律上、中断することはなく延長することはないものとされています。法律上このような期間を「除斥期間」といいます。そのため、離婚から2年を経過した後は、財産分与を請求することはできなくなります。
もっとも、離婚の時から2年以内に財産分与の請求をすることができないやむを得ない事情があった場合には、2年経過後も財産分与請求ができるとした判例もあり、例外的に離婚の時から2年経過後も財産分与の請求ができる可能性はあります。
財産分与は、離婚後の生活を経済的に支えるために不可欠なこともありますので、離婚する際には十分に注意しましょう。
財産分与の3つの性質
財産分与には、清算的財産分与、扶養的財産分与、慰謝料的財産分与3つの性質があるとされています。
1. 清算的財産分与とは
夫婦が婚姻期間中に築き上げた財産を、婚姻の終了に伴い清算し、それぞれに単独で帰属させることをいいます。
不動産や預貯金、保険などを分割するもので、一般的に財産分与としてイメージされている性質のものです。
2. 扶養的財産分与とは
夫婦の一方が離婚後、経済的に困窮することが見込まれる場合に、これを考慮して行われる性質のものです。
例えば、高齢の夫婦で、夫が開業医・妻が専業主婦だった場合に、離婚により妻側は突然生活のすべを失うことが考えられます。このように離婚後の生活のサポートが必要な場合に、その必要性を考慮して行われる性質の財産分与を清算的財産分与といいます。
3. 慰謝料的財産分与とは
財産分与の中で、慰謝料的な要素を加味して行われる場合をいいます。
例えば、夫婦の一方に暴力行為があったことを理由に離婚をする際、財産分与とは別に暴力行為に基づく慰謝料請求をすることも可能です。
もっとも慰謝料請求は、精神的苦痛を金銭評価して請求するものであり、暴力や怪我による苦痛の程度にもよりますが、一定の幅(いわゆる相場)での金銭賠償を求めるにとどまります。
慰謝料的財産分与は、このような慰謝料請求を財産分与の中で加味して、住居を一方に引き渡したり、分与割合に反映させたりと、柔軟に解決しうる点で違いが生じうることになります。
財産分与の割合:特段の事情がない場合は2分の1
財産分与の割合は、財産形成に対する寄与度に基づきが決まります。特段の事情がない限りは2分の1の割合で分与することになります。
たとえば夫が働き、妻が専業主婦をしていた場合、夫が多額の個人的な預金を所有していれば、それも2分の1の割合で分与することになります。
2分の1の割合にならないケース
対象財産を個人の才覚や能力などにより築いたという点で財産形成への寄与度が高い場合など、2分の1の割合で分与することが公平性を欠くような場合には、6対4や7対3などの割合で財産分与がされることがあります。
珍しい事例としては、一方配偶者が宝くじに当選して得られた財産について、財産分与の対象となるとしたうえで、「宝くじ購入の原資が当該一方配偶者の小遣いであったこと」や「当人が宝くじを購入し続けてきたこと」が財産形成に寄与するところを考慮して、当該配偶者に6割の財産分与が認められたケースがあります(東京高裁平成29年3月2日)。
財産分与の対象は:夫婦の共有財産
財産分与(清算的財産分与)の対象となる財産は、夫婦の共有財産です。
民法768条3項では、「当事者双方がその協力によって得た財産」と定められています。すなわち、結婚してから婚姻関係が破綻するまでの間に夫婦で築いた財産が対象となります。
財産分与の対象となる財産の時間的範囲は、実務上、婚姻開始後から別居時点までとされています。別居時までとされているのは、通常別居後は夫婦の協力関係は破綻していると考えられるためです。
どのような財産が対象?
預金のほかに、不動産、動産、会社の株や退職金請求権(争いあり)などが財産分与の対象です。
基本的には、婚姻後の財産が対象となります。
なお、財産の名義により決まるものではなく、夫婦双方の協力により形成されたものか否かによります。
夫婦の一方の名義で得た財産(例えば夫の給与・退職金)や、夫婦の一方の名義の財産(妻名義にしていた不動産)であっても、婚姻期間中に築いたものであれば、実質的共有財産として財産分与の対象となります。
例えば、婚姻期間中の夫の給与を原資とする預貯金や保険、不動産などは、名義が夫であったとしても夫婦共有財産として財産分与の対象となります。子どものために掛けていた学資保険も対象になります。
財産分与の対象とならない財産とは?
1. 婚姻前から保有していた財産
婚姻前から保有していた財産は、夫婦で築いた財産とはいえないため、一方の特有財産として財産分与の対象外となります。
婚姻前に貯めていた預貯金などの婚姻前の個人の財産や、個人的に購入した洋服や私物(ただし夫婦共有のお金から支払っていた場合は除く)などは分与の対象外となります。
2. 夫婦の協力関係によらない財産
婚姻期間中に形成された財産でも、夫婦の協力関係によらないものは財産分与の対象外となります。
たとえば、自分の親から相続した財産は、特有財産として財産分与の対象外となります。
3. 別居後の収入により形成された財産
離婚前に別居した場合、別居後に得た収入により形成された財産についても財産分与の対象外となります。
4. オーバーローン状態の不動産
マンションなどの不動産でも、不動産の価値よりも購入のための借入れ残額が大きいオーバーローン状態の場合には、財産分与の対象とはしないという扱いをすることが多いです。
負債も財産分与の対象になる?
負債についても、夫婦共同生活で発生したものは分与の対象で、住宅ローンも対象になる可能性があります。
ただし、個人的な浪費のために負った借金は分与の対象外です。
財産分与の方法・流れ
財産分与の流れは、たとえば以下のような方法があります。
- 夫婦共有財産をリストアップし、別居中であればそのリストをメールなどで相手に送付し、財産分与をしたい旨伝え、話し合う。
- 相手方が話し合いに応じないのであれば、裁判所に調停を申し立てる。調停については、離婚も含めて話し合いたいという場合は夫婦関係調整調停、財産分与のみ請求するのであれば、協議離婚をした上で、財産分与請求調停を申し立てる。
- 調停でもまとまらなかった場合、夫婦関係調整調停の場合は訴訟、財産分与請求調停は審判(裁判所が双方の主張、証拠等に基づき、分与額を決める手続き)に移行。
2、3となれば、法的な知識が必要になってくる場合がありますので、ご不明な点があれば弁護士に相談されることをおすすめいたします。
財産分与の法律実務の変化
財産分与においても、法律実務は変化しています。
まず、夫婦のいずれか一方名義の借金(債務)については、財産分与の手続においては原則として考慮されないという考え方が、法律実務上スタンダードでした。あくまでも、婚姻期間中に夫婦間で築き上げた「財産」を分与するのが、条文(民法768条)の文言解釈にも合致しますし、債務は第三者に対する支払義務であるため、第三者が承諾しない以上その分与は難しいという判断がありました。
しかしながら、債務が配偶者の一方に偏っている場合など、これを他方配偶者にも支払わせないと不公平な事案においては、債務の分与を認めるべきでしょうし、マイナスの「財産」の分与と考えれば条文にも反しないことから、債務についても財産分与の対象として考慮されるように変わってきました。
また、財産分与は、夫または妻名義の財産を分与するのが一般的です。しかしながら、子ども名義、夫や妻の両親名義、夫や妻が関与している法人名義の財産についても、分与の対象とすべき事案があるのではないでしょうか。
例えば、妻が子供名義の口座で高額の預金をしていた場合や、夫が会社役員で夫が会社名義で車を購入しているがその車を家族が日常的に使用してきた場合など、他人名義であっても、実質的には夫婦の共有財産と評価できるような財産がある場合、これを主張・立証することで、より多くの財産分与を認めてもらう余地がでてきます。
このような新たな主張は、日々情報を収集して研さんを深めるとともに、クライアントの生の声・希望をふまえ、その最大限の利益を図るという思考で業務に取り組むことで、達成できるのだと思います。
※本記事は、公開日時点の法律や情報をもとに執筆しております。
【本記事の監修】
弁護士法人桑原法律事務所 弁護士 桑原貴洋(代表/福岡オフィス所長)
- 保有資格: 弁護士・MBA(経営学修士)・税理士・家族信託専門士
- 略歴: 1998年弁護士登録。福岡県弁護士会所属。
日本弁護士連合会 理事、九州弁護士会連合会 理事、佐賀県弁護士会 会長などを歴任。