離婚コラム
養育費
養育費をさかのぼって請求できますか?(取り決めをしていない場合)
公開日:2020.05.12 最終更新日:2022.07.28
離婚してから、養育費を支払ってもらえていない場合、さかのぼって請求することはできるのでしょうか。
以下で、弁護士がくわしく解説いたします。
養育費について取り決めしていた場合
離婚協議書や公正証書、調停調書などで、養育費の支払義務を具体的に取り決めしていた場合には、時効にかかっていない限り、過去にさかのぼった養育費の請求が可能です。
養育費について取り決めしていない場合
交渉で過去の養育費を求めることは可能
過去の養育費について、交渉で相手方に対して支払いを求めることは問題ありません。相手方が支払うことを了承すれば、支払いを受けることができます。
相手方が支払うことを了承した場合には、公正証書を作成することになると思われます。
相手方が交渉で養育費の支払いに応じない場合
一方で、交渉にて相手方が支払いに応じなかった場合は、どうなるのでしょうか。交渉で協議がまとまらない場合には、家庭裁判所での手続(調停、審判)を利用することになります。
家庭裁判所の実務上、一般的に、過去にさかのぼって養育費を請求することはできないと考えられています。
養育費の支払がなくても生計を立ててこられたという事情もありますし、過去にさかのぼった養育費の支払いは、期間によっては多額となって支払い義務者に酷であることなどを理由として、過去にさかのぼった養育費の支払いは認められていないのです。
とはいえ、最高裁判例があるわけではありませんので、請求者が借金をするなどによって生計をギリギリ立ててきたような事案で、期間がそれほど長期に及ぶものではなく、義務者も経済的にゆとりのあるようなケースの場合には、過去にさかのぼった養育費を認めてくれるかもしれません。
養育費について、疑問に思うことがありましたら、まずは桑原法律事務所にご相談ください。
当事務所の新しい取り組み
当事務所では、老親扶養などで判例もある、扶養義務者間における立替扶養料(過去に支払ってきた扶養料)の求償請求の理論を活用した、実質的な、養育費の過去にさかのぼった請求についても研究しています。
過去の判例や文献を読み込んでいくと、家事事件手続法(旧家事審判法)の基本的な考え方からして、そもそも過去にさかのぼった請求を認めるのは難しいのではないかという理論が、根っこにあることが分かります。その上で、扶養義務を負っているのに、これを負担しないことによって財産を形成したなどの事情があるのであれば、これを不当利得として返還義務を認めるべきではないか、という考え方を背景に、その後の判例の形成を通じて、扶養義務者間における立替扶養料の求償請求が認められるようになっていったことがわかります。
この理屈を、養育費請求にも援用できれば、過去にさかのぼった養育費や婚姻費用の分担請求についても認める余地はあるのではないか、と考えられます(消滅時効もありますので、永遠にさかのぼって請求できる訳ではありません)。
親には未成熟子に対する養育義務・扶養義務があるのですから、これを免れさせる結論に裁判所がお墨付きを与えるような現在の実務の運用には、警鐘を鳴らしたいところです。
※本記事は、公開日時点の法律や情報をもとに執筆しております。
【本記事の監修】
弁護士法人桑原法律事務所 弁護士 桑原貴洋(代表/福岡オフィス所長)
- 保有資格: 弁護士・MBA(経営学修士)・税理士・家族信託専門士
- 略歴: 1998年弁護士登録。福岡県弁護士会所属。
日本弁護士連合会 理事、九州弁護士会連合会 理事、佐賀県弁護士会 会長などを歴任。